WordCamp US 2023 レポート ~Gutenberg: Next~

石川英典

「WordCamp US 2023」に参加したプライム・ストラテジー「KUSANAGI」開発チームの石川が、WordPress開発者でAutomattic創設者のMutt Mullenweg氏による最終セッションの詳細について報告。WordPressの20年間の成長と今後の開発方針についての情報を共有し、発表のキーポイントを整理して提示。オープンソースとの関わり合いや長期的視野を持つことの重要性を訴え、エンタプライズOSSエコシステムの今後の発展にプライム・ストラテジーがどのように貢献していくか提唱している。

プライム・ストラテジー「KUSANAGI」開発チームの石川です。

2023年8月24日から26日にアメリカのメリーランド州、ナショナルハーバーで開催された「WordCamp US 2023」にスポンサーとして参加してきました。

前々回前回 に引き続いて、今回が最後のセッション紹介となります。

Gutenberg: Next

WordCamp US 2023を締め括る最後のセッションの発表者として登場したのが、WordPressの開発者であり、Automatticの創設者である Matt Mullenweg 氏です。

発表者の Matt Mullenweg 氏

WordPressが世に登場 (2003年5月) して20年の節目の今年、Gutenberg: Next のセッションではブロックエディタである Gutenberg の最新情報とWordPressの今後について講演しました。

YouTubeの動画は こちら から。

以下に要点をまとめました。

WordPress 6.3

2003年5月にWordPressをはじめてリリースしてから、20年間で大きく成長してきました。そして、数週間前の8月8日に 6.3 をリリースしました。

特に気に入っているのは コマンドパレット (Command Pallete) です。ショートカットキー (Windowsならば Ctrl+k) で呼び出せて、WordPressのコマンドラインと言えます。ここから全てをコントロールできる。これまでのリリースで一番機能リッチなリリースと考えています。

WordPress 6.4

来たる11月6日には、今年3回目のリリースである 6.4 が出る予定です。

WordPressは年に3回のメジャーアップデートのペースを維持しています。過去に4回にしようとしたこともありましたが、3回が無難なようです。ちなみに2023年は他に 6.2 を3月29日にリリースしています。

新テーマ: Twenty Twenty-Four

6.4が目指すのは以前の5.6に近いもので、アップデートに対応した新しいテーマである Twenty Twenty-Four が入ります。SMBだけでなく、クリエーターやブロガーにも使いやすいテーマとしてデザインされています。

フォント管理

Googleフォントのライブラリと連携して、選んだフォントをダウンロードして、サイトにインストールできるようになります。ローカルのサイトにインストールすることで、Googleへフォントを取りに行く必要がなくなります。

Image Lightbox

イメージや添付ファイルをクリックすると、フルスクリーンでズームして表示できるようになります。これまでは同じことをするにはプラグインが必要でした。シンプルですが、coreだけでできるようになったのは素晴しいことです。

Gutenbergの今後

Gutenbergが世に出た時、4つのフェーズがあると説明しました。

  • P1 Editing
  • P2 Customization
  • P3 Collaboration
  • P4 Multilingual

P1 EditingはClassic Editorからブロックへ移行したことです。

P2 Customizationは6.3で完了します。ブロックをポストやページ内だけでなく、サイト全体で変更できるようにしました。ブロックテーマとして活用されています。以前はCSSをいじったり開発が必要でしたが、マウスで動かしたりクリックしたりで変更できるようになりました。
WordPressは 発行(Publising) の民主化、ノーコードの元祖と言えます。難しかったことがどんどん使い易くなり、幅広い層に使われるようになっていっています。

P3 Collaborationはこれからのフェーズ。一番期待していることです。
複数の人で同じページを同時に編集できようにします。これまでリビジョンで管理はできましたが、実際に同時に編集できるようにします。まだ、開発を始めたところですが。
コラボレーションしやすいように管理画面 (admin) もモダナイズします。MP6 以来の大きなリデザインかもしれません。
また、編集して公開する前に誰かが承認しないといけない、などのワークフローもいれます。

オープンソースであること

オープンソースはすばらしい。さまざまな人が集まり、理論的には競合する企業の人が同じ場所に集って話をして、コードまでシェアしています。資本主義のプラス・サムで、参加者で互いに異なることよりも、共有していることが多いからできることです。

ユーザーとして特定のプラグインにロックインされる、他のプラグインと互換性がないのはよくないことです。当時、SEOのプラグインの開発者がcoreで共通のビルダーがあれば1つで済むのに、いろいろなビルダーに対応するために個別に開発するのが大変と言っていました。これがGutenbergとブロックを開発するきっかけになりました。

新しい取り組みとして WordPress LMS (Learning Management System) があります。

CMSをオンライン学習コースのプラットフォームとして使う取り組みで、LMSに関するプラグインを作っている人々が集って議論しています。
議論しているのは、WordPressとしてどんなコモンデータモデルが作れるか? 例えば、SQLステートメントのフォーマットを共通化してアブストラクトでないか、とか。
業界標準はあるのか? WordPressやプラグインとして、インポート、エクスポートなどユーザーがいつでも他のツールへ移行できるように、業界標準に合わせる、とか。

できれば同じようなことを、SEOプラグイン、ビルダープラグインなど、他のプラグインへも広めていきたいです。

長期的展望を持つ (Long-term thinking)

WordPressとして20年たちました。この先のことも長い目で考えていくことが必要です。

その1つとして始めたものが 100 year hosting plan on WordPress.com です。

これは会社として、どうすれば100年もの期間で同じサービスを提供できるか検討するという意義がある取り組みです。
例えば、下にあるドメインは最大10年単位でしかレジスターできません。だから10年毎に利用者に変わって更新を続けないといけません。
将来どうなるか分からないコストを見積るのも大変です。38,000ドル (560万円) という価格は高いですが、もしかしたら安いかもしれません。インフレや将来の価格変動を考えないといけないし、ドメインレジストレーションのコストが上がるかもしれません。
この先50年、80年して技術が変わったら、それらをサポートを継続するか。例えばVRやメタバースが出てきたらサポートするのか、など。

考えることはいろいろありますが、とても興味深いです。

最後に

WordPressの開発者であり、創始者であるMattの講演からは、WordPressが常に長期的な視点に立って開発が進められてきているということと、オープンソースに対するメッセージがこめられていました。

オープンソースソフトウェアをより高速に、より安全に、より安心してお客様のビジネスにご活用いただけるよう、当社は今後も継続してKUSANAGIやWEXALの開発を進め、エンタプライズOSSエコシステム発展に貢献してまいります。

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